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インキュナブラコレクション
[ Japanese / English ]
003 セネカ 『悲劇集』 (ヴェネツィア、ラザルス・デ・スアルディス印行、1492年12月12日)
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z6r z6r z6v z6v
upper cover upper cover lower cover lower cover
Author : Seneca, Lucius Annaeus
Title : Tragoediae. Comm: Gellius Bernardinus Marmita. Prelim: G.B. Marmita: Epistolae Guillelmo de Rupeforti
Language : lat
Format : fº
Place of Publication : Venice
Printer : Lazarus de Suardis, de Saviliano
Date of Publication : 1492-12-12
Binding : Early 19th-century quarter calf binding and marbled boards.
Bibliographical Notes : 139 leaves; wanting a1; printer's device on z6r; some marginalia and inscriptions in a contemporary hand (especially heavily annotated on a2r and z6v).
Provenance : Mauzentius Skinner (signature; a2r).
ISTC : is00436000
Reference : Goff S436, HC 14666, BMC V 491, IJL 268, IJL2 340
Shelfmark : 120X@510@1
Acquisition Year : 1979

 ローマ帝政初期の劇作家、政治家、またストア派哲学者として名高いセネカ(4 BCE-65 CE)は、スペインのコルドバに生まれ、弁論家父大セネカと区別するため小セネカとも呼ばれる。54年クラウディウス帝の死後は帝政の実権を握り、行政に腕をふるった。彼は後に皇帝となる幼少ネロの家庭教師を務めたことでも有名であるが、65年ピソの陰謀に加わったかどでネロに自殺を命じられ自ら命を絶った。
 セネカは論理学や自然研究よりも倫理に強い関心を寄せ、とくに死に対して人間がとるべき態度に最大の関心をはらった。ストア思想家として『道徳書簡集』(Epistulae morales)、『幸福な人生について』(De vita beata)、『人生の短さについて』(De brevitate vitae)など数多くの著作を残し、こうした哲学的散文作品は中世以降広く読まれた。
 本書はセネカによる悲劇作品集であり、何れの作品もギリシャの素材を扱っている。セネカ作とされる悲劇として『狂えるヘラクレス』、『トロイアの女たち』、『メデイア』、『ヒッポリュトス』、『オイディプス』、『アガメムノン』、『テュエステス』、『オエタ山上のヘルクレス』、『フェニキアの女たち』、『オクタウィア』の10篇が伝わっているが、このうち『オクタウィア』は今日では偽作と見なされている。同様に『オエタ山上のヘルクレス』についても偽作とする論争がある。セネカの悲劇が実際に上演されたかは明らかではなく、セネカ自身は上演よりも朗読を想定したとする説もある。
 セネカの作品は、劇的構成や展開および登場人物の行動よりも、人間の心にひそむ情念の破壊的作用の描出に重点を置くとも言われる。また摂理の存在、運の脆さ、盛者必衰の理、中庸の徳、生からの避難所としての死、などストア思想に通ずるせりふや合唱歌が随所にみられるのも特徴と言えよう。こうしたことから、悲劇もまたストア思想を説くために書かれたとする説もあるが、一方で、こうしたテーマは普遍的文学トポスでもあると反駁する声もある。
 1484年にラテン語版が刊行されると、次いで伊訳版、仏訳版、英訳版が出版され、後世のヨーロッパ文学史、ことにその演劇史形成において多大なる影響を与えた。シェイクスピアは『ハムレット』第2幕第2場でポローニアスに「セネカを演じて重きに流れず(Seneca cannot be too heavy)」と語らせているが、特にイギリス・ルネサンスの時代に活躍した大学才人(the University Wits)やシェイクスピアなど時の劇作家・文学者、またラシーヌ、コルネイユなどのフランス古典劇作家たちもセネカによるところは大きい。
 慶應本はヴェネツィアで1498年ラザルス・デ・スアルディスが刊行した版で、Gellius Bernardinus Marmitaの注釈付きである。本文はローマン体で印刷され、折記号z6rには印刷者標章が入っている。複数のことなる筆跡で書き込みが随所にみられ、なかには同時代の筆もある。特に最終ページの白紙(折記号z6r)にはびっしりと書き込まれている。また折丁記号a2rには'Maurentius Skinner'など初期の所有者と思しき署名があるが、人物について特定はできていない。製本は19世紀で最初の一葉(タイトルページ)を欠く。
 
 【参考文献】
 『セネカ悲劇集 2』岩崎務、大西英文 他訳、西洋古典叢書(京都: 京都大学出版会, 1997年)
 
 (ST)

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