2017/04/06 新たに 「慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクション」 を公開しました。

Digital Gallery of Rare Books & Special Collections
インキュナブラコレクション
[ Japanese / English ]
039 フランチェスコ・ペトラルカ 『順逆両境への対処法』 (クレモナ、ベルナルディヌス・デ・ミシンティス&カエサル・パルメンシス印行、1492年11月17日)
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Author : Petrarca, Francesco
Title : De remediis utriusque fortunae. Ed: Nicolaus Lucarus[Niccolo Lucano]
Language : lat
Format : fº
Place of Publication : Cremona
Printer : Bernardinus de Misintis and Caesar Parmensis
Date of Publication : 1492-11-17
Binding : 19th-century half calf binding over paper boards with marbled papers.
Bibliographical Notes : 164 leaves (of 166); some annotations and underlines by a contemporary hand; spaces for large initial capitals with guide-letters; printer's device on C7v.
Provenance : 1. Horace B. Webster. 2. Syracuse Public Library.
ISTC : ip00409000
Reference : Goff P409, HC 12793*, BMC VII 956, IJL2 291
Shelfmark : 141X@123@1
Acquisition Year : 1998

 フランチェスコ・ペトラルカ(1304-74)は、1341年にローマで桂冠詩人の冠を受けると、その足で同世代の友人、パルマの権門アッツォ・ダ・コレッジョを訪れ、パルマ郊外のアペニン山脈に近いセルヴァピアーナにあるコレッジョ家の城に、1341年から1345年まで2度にわたって滞在した。ペトラルカは既に1337年にアヴィニョン郊外のヴォークリュ-ズに隠棲して、『著名人伝』や叙事詩『アフリカ』に着手していたが、セルヴァピアーナを「イタリアのヘリコン」と呼んで大いに気に入り、この地はヴォークリューズとともに詩人にとって詩的霊感の源となった。『順逆両境への対処法』は、パルマの支配をめぐって運命に翻弄されたアッツォに捧げられた、ラテン語散文によるキリスト教道徳の書である。ペトラルカは、そのタイトルが示すように、友人のアッツォへの訓戒と慰めを念頭において1354年に本書に着手したが、完成したのはアッツォ死後4年経った1366年であった。
 『順逆両境への対処法』は、順境への対処法と逆境への対処法の2部で構成されていて、一般に幸運とされるものはすべからく無価値で哀れなものであり、一方で不幸や災難とみなされているものこそが、善き死への準備となり、救済を獲得する助けとなると論じている。中世において入門的な神学書に好んで使用された対話体を用い、第一部では「理性」が「喜び」と「希望」と、第二部では「悲しみ」と「恐れ」とそれぞれ討論するかたちで記され、各部毎に百数十の具体例を挙げて、詳細に幸運と不運の諸相を論じている。本書は、中世にはセネカ作とされた作者不詳の『運命の対処法』(De Remediis Fortuitorum)やボエティウスの『哲学の慰め』、さらには中世の「現世蔑視」文学の影響を受けて記された、ペトラルカなりの「慰め」(consolatio)の文学である。
 今日では、『順逆両境への対処法』はヒューマニストで詩人のペトラルカの代表作とはみなされておらず、たとえばラウラに捧げた『俗語断片詩集』や「書簡集」に比べて知られていない。しかし14-15世紀においては、本書は、『孤独の生活』や『わが秘密』と並んで、もっとも広く読まれ、各国語に翻訳されたペトラルカの代表作品だったのである。現存する写本も多く、同時代の英語やフランス語への翻訳も存在し、そのキリスト教道徳と古典からの豊富な引用は、中世後期の多くの作家に影響を与え、また利用されている。
 本書のeditio princepsは、シュトラースブルク(現・ストラスブール)のハインリッヒ・エッゲンシュタイン(Heinrich Eggesteyn)によって1473-75年頃に刊行され、この版はほとんどそのままの形で1490年に再版されている。1492年にクレモナで刊行された慶應本は、editio princepsとは独立して刊行された版で、クレモナの修辞学教授で歴史家のニッコロ・ルカーノ(Niccolò Lucano; d. 1515年)によって編集された。この版をもとにして、1496年、1501年にはペトラルカの全集も編まれている。クレモナ版はeditio princepsよりも正確なテクストを持っているとされ、その後の版の大半は、現代の校訂版も含めてこの版に基づいている。慶應本では、冒頭に手書きによる目次が挿入されており、また同じ書体による欄外書き込みが随所にみられる。
 
 【参考文献】
 Petrarch's Remedies for Fortune Fair and Foul: A Modern English Translation of De Remediis Utriusque Fortune, with a Commentary, ed. and trans. by Conrad H. Rawski, 5 vols (Bloomington: Indiana University Press, 1991)
 Nicholas Mann, Petrarch (Oxford: Oxford University Press, 1984)
 近藤恒一『ペトラルカ-生涯と文学』(東京: 岩波書店, 2002)
 A Dialogue between Reason and Adversity: A Late Middle English Version of Petrarch's De Remediis, ed. by F. N. M. Diekstra (Assen: Van Gorcum, 1968)
 
 (TM)

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